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しじみがし

しじみ河岸

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1954(昭和29)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,438 字 · 51 页

青空文庫

と茂吉が訊いた、「あの男が、なにか致したのでございますか」

「いやなんでもない、溺れていたから助けてやっただけだ」

「然しなにか、いま」と茂吉が云った、「石を抱かされても饒舌らないとか申しましたが」

「酔ってでもいるんだろう」彼は帯をしめ終って、ゆきたけを眺めながら云った、「――結構だ、店の暇を欠かせて済まなかったな、私は南の与力で花房律之助という者だ、明日にでも店へ寄るから、代銀を調べておいてくれ」

「いえ、とんでもない、お役に立ちさえすれば、手前どもではそれでもう」

「明日ゆくよ」と彼は云った、「済まなかった」

茂吉は帰っていった。それから律之助は、まだ横になっている六助のそばへいった。

「おい、――」と彼は云った、「ぐあいはどうだ」

六助は黙っていた。年は二十七八、色の黒い骨張った顔で、わざとらしく月代を伸ばしている。髭はきれいに剃っているので、月代はわざと伸ばしていることがわかった。

「おまえいま、なにも饒舌らないといばったな」と彼は云った、「石を抱かされても、なんぞとひどく威勢のいいことを云ったが、――つまり、なにか饒舌って悪いことがあるんだな」

「どうでもいいようにしてくれ」