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ちいさこべ

ちいさこべ

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1957(昭和32)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,480 字 · 67 页

青空文庫

「おまえが七つならおれは十二だろう、そんな年で女の子をぶつなんてことが、――」そこで茂次はあとが続かなくなった。

「ね」とおりつが眼で笑った、「思いだしたでしょ」

彼は思いだした。彼を見かけるたびにおりつがからかう、どうからかわれたかはもう忘れたが、度たびからかわれるので、いちど、捉まえてぶったことがあった。そうだ、あのときこいつは涙をこぼした、と茂次は思った。手向いもせずに、大きな眼でこっちを見て、その眼から涙をぽろぽろこぼした。

「あれは」と茂次は気まずそうに云った、「あれはおめえが悪いんだ、おれの顔を見るたびにからかったからだ」

「覚えてるわ」とおりつが云った、「あたしあんたのこと、若棟梁のこと好きだったのよ、それで、あんたにかまってもらいたくってわる口を云ったらしいの、だから、そのあとわる口なんか云ったことはなかったでしょ」

「子供ってやつはむずかしいもんだ」

「そうね」とおりつが云った、「菊二のことも気をつけるわ」

その月の十五日の休みに、子供たちを伴れて道灌山へ遊びにいった。おりつとおゆうとで握り飯や海苔巻をつくり、お菜の重詰めも拵えた。片道一里半ちかくあるので、くろもいっしょに伴れてゆき、あっちゃん始め、市や伝など、小さいのが疲れると、茂次とくろとで背負ってやった。