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ちいさこべ
ちいさこべ
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1957(昭和32)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,480 字 · 67 页
十三
うそにもそんなことを思ってはいけない、とおりつは自分をたしなめるのであった。
或る夜、――寝床の中へはいってから、おりつは同じようなことを考え、あやされるような、かなしいような気分にひたりながら、おゆうが嫁に来たら、自分はこの家を出てゆくのだ、などと気負った想像で自分をあまやかしていたが、まもなく、廊下にかすかなもの音がするのを聞いて、どきっとし、息をひそめた。
時刻は十一時にちかいだろう、みんな寝しずまっているから、ずいぶん足音を忍ばせているらしいが、廊下をこちらへ、誰かの歩みよって来るのがよくわかった。
十三
まただ、きっとまたあの子だ。おりつはじっと耳をすました。
いつか茂次に云われたことがあるので、彼にはなにも告げなかったが、少しまえからときどきそんなことがある。おりつが寝床へはいって暫くすると、そっと廊下を忍んで来て、障子の外から中のようすをうかがっているらしい。まもなくまた忍び足で去ってゆくのだが、子供部屋の障子を閉める音が聞えるので、子供たちの誰かだということ、とすれば菊二だろうと見当がついていた。
――いやらしい。
おりつは心の中で呟きながら、このごろ目立って背丈の伸びた、菊二のようすを思いうかべた。