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ちいさこべ
ちいさこべ
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1957(昭和32)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,480 字 · 67 页
二
と茂次は顔をそむけながら云った、「おやじとおふくろのことは二度とおれに聞かせないでくれ」
大六は頷いて、葬式は茂次が帰ってからする手筈にしてきたと云った。
二
大六はそれから三度、江戸のようすを見にいって来た。
町内では質両替商の「福田屋」が焼け残った。あるじの久兵衛は五人組を勤めているし、資産の点でも人望の点でも、神田では指折りであった。長男の利吉は茂次と同年の二十三で、その下におゆうという十七になる妹がいる。二人とも茂次とは幼な馴染であり、いまでも親しいつきあいが続いていた。店は角地で、土蔵が三棟あるし、前が掘割の土堤、北側が道を隔てて武家の小屋敷になっている。そういう地の理が幸いしたのかもしれないが、その隣り町の小屋敷の一画と、福田屋だけは焼け残った。
「いちめんの焼け跡で不用心だからと、奥の人たちはまだ目白の親類のほうにいるそうですが、店はもうあけていました」
「そいつはよかった」と茂次は云った。
大留も焼け跡へ小屋を建てていた。
火事では留造夫婦といっしょに、倉太、銀二という二人の弟子が死んだが、くろは助二郎の家へ手伝いにいっていて助かった。