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ちいさこべ

ちいさこべ

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1957(昭和32)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,480 字 · 67 页

青空文庫

十

茂次はむっとした顔でおゆうを見た。おゆうは唇で微笑しながら頷いた。

「いいわよ」と彼女は立ちあがった、「あんたってずいぶん我が強いのね」

茂次はなにも云わなかった。おゆうが出ていって暫くすると、自分の茶呑み茶碗を持って久兵衛が来、そこへ坐りながら、「吉川町の普請場が焼けたそうだな」と云った。

「そのことで頼みがあって来たんです」そう云って、茂次はきちんとかしこまった。

十

彼はいつものぶっきらぼうな調子で、だがすべてを隠さずに話した。それから包を解いて「大留」の看板を出し、これで五百両貸してもらいたいと云った。久兵衛は黙って聞いていて、聞き終ってからもゆっくりと茶を啜りながら、茂次の話を吟味するかのように、かなり長いこと考えていた。

「一つ訊くが」とやがて久兵衛が云った、「高輪やあべ川町とのことはわかったが、私のところへ来たのはどういう気持なんだね」

「こちらは質屋でしょう」と茂次は云った、「あっしはこれをかたに金を借りる、旦那はこれをかたに金を貸す、――むろん貸してくれてのはなしだが、この貸し借りはしょうばいだから、はっきりけじめがつくと思うんです」

まるで「大留」