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ちいさこべ

ちいさこべ

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1957(昭和32)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,480 字 · 67 页

青空文庫

「なんだ」と不審そうに茂次が訊いた。

「おりつっていう娘を知ってますか」と大六が云った、「炭屋の裏長屋にいて、おふくろがうちの店へ手伝いに来ていた」

「知ってるよ」と茂次が云った。

「雇ったのはあの娘なんだ」

茂次は大六の顔を見た、「――あれは、どこかの茶屋奉公に出てたんじゃないのか」

「並木町の天川だったそうだが」と大六は答えた、「それがじつは、おふくろが、やっぱりあの火事で焼け死んじまったそうで、すっかり途方にくれてるような按配だったもんだから」

「おいくも焼け死んだって――」茂次は遠くを見るような眼つきをした、「そいつは可哀そうに」

「それでもう、茶屋奉公をするはりあいもないし、できるなら生れた町内で堅気なくらしがしたい、みなさんの食事ごしらえや洗濯なんか引受けるから、と云うもんでね」

「わかった、おりつならいいだろう」

「あっしもそう思ったんだが」

茂次はまた大六の顔を見た、「――なにを云いそびれてるんだ」

「べつに云いそびれてるわけじゃあねえが」と大六はまた頭を掻いた、「じつは、こんどいってみると、あの娘が子供を集めて面倒をみているんだ、火事にあって、親きょうだいをなくした子供たちなんだが」