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ちくしょうだに
ちくしょう谷
山本 周五郎
「別冊文藝春秋」1959(昭和34)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,788 字 · 138 页
「四十日近くもよけいに勤めたんだ、もう帰るほうがいい、御苦労だった」と云って隼人は軽く岡村をにらんだ、「――もう悪七兵衛などと云われないようにしてもらいたいな」
「どうですかね」岡村は苦笑しながら、一種の眼つきで隼人をみつめ、低い声に力をこめて云った、「――どうか彼に用心して下さい」
隼人は黙って眼をそむけた。
かれらが木戸を出てゆくとまもなく、晴れている空から雪が舞いだし、やむかと思ったが、午すぎには粉雪になってしまった。積っては桟道が危ないだろう、と思っていると、午後二時ころに足軽の一人が戻って来て、かけはしが落ちて通れなくなった、と告げた。――奇妙なことに、そのとき隼人はすぐ、「こっちから二つめではないか」と訊き返した。訊き返してから初めて、どうしてそんなことが口から出たのか、自分でもわからないのに気づいておどろいた。
「さようです」その足軽は荒い息をしながら答えた、「こちらから二番めのかけはしで、支えの柱が折れてしまったのです」
「人にけがはなかったか」
「木を盗みに来たやつらが落ちました」と足軽は手まねをして云った、「あの二人を先に立てていったのですが、かけはしのところで、逃げる気になったのでしょう、腰繩のまま二人で駆けだしたのです」