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ちくしょうだに
ちくしょう谷
山本 周五郎
「別冊文藝春秋」1959(昭和34)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,788 字 · 138 页
話してくれた好意には感謝するが、決闘のことは忘れてもらいたい。隼人はそう云って、なだめるように伊平次を見た。伊平次は納得して帰っていった。
その月の下旬に、小池帯刀が訪ねて来た。五人ばかり若侍たちが集まっていたが、帯刀はかれらに向って、要談があるから帰ってくれと云い、若侍たちはすぐに立ちあがった。帯刀はきつい表情になっていて、二人だけになってもすぐには話をきりださなかった。隼人はなにも感じないように、黙ったまま帯刀のために茶を注ぎ、相手が話しだすのを黙って待っていた。
「いつかの約束を覚えているか」とやがて帯刀が口をきった、「織部どのと西沢との事は始末がついた、なにも詮索はしないと約束した筈だ」
「詮索などという言葉はなかったようだが、約束したことは覚えている」
「それなら約束は守ってもらいたいな」
「これ以上にか」
「山の木戸を調べさせているのはどういうわけだ」と帯刀が云った、「おれは柳田重太夫から聞いた、十二月以来、手をまわして木戸のことを調べているそうではないか」
「調べているのは流人村だ」
「あの部落は木戸の支配だし、木戸には西沢半四郎がいる」
隼人はやわらかに咳をして、それから云った、「おれはずっと昔から流人村に興味を持っていた、あの部落がちくしょう谷と呼ばれること、住民たちが農耕を知らず、文盲でけものの