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ちくしょうだに
ちくしょう谷
山本 周五郎
「別冊文藝春秋」1959(昭和34)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,788 字 · 138 页
というような眼くばせをした。
「猟に使う矢ですね」老人は矢をしらべてみながら云った、「この村で作ったものです、それは慥かですが、権八がやったとは、ちょっと考えられませんな」
あれから二十余日も経っているし、この村へ戻ったようすはない。もし戻ったとすれば、少なくとも自分にだけはわかる筈である。また戻って来ないとすれば、この山の中で二十日以上も飢えずにいられるとは思えない、と老人は云った。
「それじゃあ」と娘が云った、「あのげんまだろうか」
老人はゆっくり首を振った、「げんまも頭六も乱暴者だが、御番頭を射殺するほど頓狂でもないし、そうする仔細もないだろう」
「いや、もういい」隼人は岡村がなにか云いかけるのを遮った、「この話はよそう、そしてこれは四人だけのことにして、ほかの者にはもらさないように頼む」
彼はそれを、あやには特に念を押し、老人と話すことがあるからと云って、彼女を家まで送るようにと岡村に命じた。もちろん座を外せという意味である。あやは辞退したが、七郎兵衛は渋い顔をして立ちあがった。――二人が去ったあと、隼人の話を聞いた正内老人は、弱よわしい太息をついたまま、ながいこと黙っていた。