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ちくしょうだに
ちくしょう谷
山本 周五郎
「別冊文藝春秋」1959(昭和34)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,788 字 · 138 页
御用林の見廻りを済ませて、木戸へ帰って来た隼人を見ると、岡村七郎兵衛が門のところに立っていて、いま権八を追っている、と告げた。
「貴方がおでかけになるとまもなく、小者の三造と西沢がみかけたそうです」と岡村は云った、「道の向うの岩蔭から覗いていたんだそうで、すぐ二た手に別れて追って出ました、まだ帰って来ませんが、なにか変ったことはありませんでしたか」
松木久之助が「では」と云いかけ、隼人を見て口をつぐんだ。隼人はなにもなかったというふうに首を振った。
「権八だということは慥かなのか」
「さあ、――」岡村は肩をゆりあげた、「見たのは西沢と小者ですから、私はなにも知りません」
隼人は無表情に役所のほうへ去った。
追手に出たのは西沢半四郎と小者三人である。小野大九郎と乾藤吉郎は、十人の足軽たちと当番で御用林にいた。それで、木戸を無人にすることはできないので、岡村七郎兵衛だけが残ったのであった。――追手の四人はまもなく帰って来たが、そんなになが追いをしながら、権八を捉まえることもできなかったし、どっちへ逃げたかもわからずじまいだった。西沢半四郎は詳しい報告をしようとしたが、隼人はその必要はないと首を振り、今後は許しのない限り木戸をあけてはならない、と云った。