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ちゃん

ちゃん

山本 周五郎

「週刊朝日別冊陽春特別読物号」朝日新聞社、1958(昭和33)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,377 字 · 45 页

青空文庫

お直はわなわなとふるえていて、すぐには言葉が出なかった。

「そう、――」とやがてお直がうなずいた、「そうなの」とお直は歯のあいだから云った、「そうして、お蝶さんといっしょになるつもりね」

重吉は息を止めてお直を見た。

「おめえ」と云って、彼は息を深く吸い、静かに長く、吐きだした、「そんなことじゃねえ、お蝶なんてなんの関係もありゃあしねえ、おれがいちゃあみんなのためにならねえっていうんだ」

「なにがみんなのためにならないの」

「いま云ったじゃあねえか」重吉はじれたように力をいれて云った、「おらあ、だめな人間なんだ、職人の意地だなんて、口では幅なことを云ってる、むろん意地もなかあねえが、おれだって人間の情くらいもってる、てめえの女房子に苦労させてえわけじゃねえ、できるんなら当世向きの仕事をして、おめえや子供たちに楽をさせてやりてえんだ、そう思ってやってみたけれども、幾たびやってみてもできねえ、いざやってみるとどうしてもいけねえ、どう自分をだましても、どうにもそういう仕事ができねえんだ」

「できないものをしようがないじゃないの」

「それで済むか」と重吉が遮った、「このあいだ金六町にも云われた、時勢を考えろ、いまのままじゃあ、かみさんや子供たちが可哀そうだって、云われるまでもねえ、てめえでよく知ってた、けれどもそう云われて