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ちゃん

ちゃん

山本 周五郎

「週刊朝日別冊陽春特別読物号」朝日新聞社、1958(昭和33)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,377 字 · 45 页

青空文庫

五

五

「かあたんは夜なべだかやね、もう二人とも寝ちまいな」と云うのもお芳だ、「さっさと寝ちまいな、夜なべをして、あった問屋へ届けなけえば、お米が買えないんだかや、さっさと寝ちまいな」

そのときも同じことであった。その小さな世帯はひどく苦しい、おたつはまだ頑是ないし、亀吉は手ばかりかかって少しも役に立たない、お芳ひとりが飯の支度をしたり、縫い張りをしたり、夜も昼も賃仕事をして稼ぐのである。

「うるさい、うるさい」とお芳がまた云う、「そんなとこよで、ごまごましてたや、仕事ができやしない、二人とも外へいって遊んできな」

重吉は耳をふさぎたくなり、いたたまれなくなってそこを立った。

「十日戎の、売り物は」上り端の二帖へいって、重吉は外を眺めながら、調子の狂った節で低くうたいだした、「――はぜ袋にとり鉢、銭叺、小判に金箱」

彼はそこでやめて、首を振った、「唄も一つ満足にはうたえねえか」

重吉は気のぬけたような眼で、ぼんやり外を眺めやった。向うの井戸端で良吉の声がする。盤台を洗いながら、近所のかみさんと話しているらしい。元気な話し声にまじって、高い水の音が聞えた。良吉の声には張りがあり、話す調子はおとなびていた。