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ちゃん
ちゃん
山本 周五郎
「週刊朝日別冊陽春特別読物号」朝日新聞社、1958(昭和33)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,377 字 · 45 页
、おらあ、どうしてもここにはいられねえんだ」
「そいつはいい考えだ」と云う声がした。
突然だったので、重吉もお直もとびあがりそうになって、振返った。六帖のそこに、良吉が立ってい、その向うにおつぎも亀吉も、お芳までも立っているのが見えた。
「そいつはいいぜ、ちゃん」と良吉は云った、「どうしてもいたくねえのならこのうちを出よう」
「良、なにを云うんだ」とお直が云った。
「けれどもね、ちゃん」と良吉は構わずに云った、「出てゆくんなら、ちゃん一人はやらねえ、おいらもいっしょにゆくぜ」
「あたいもいくさ」とお芳が云った。
「芳なんかだめだ」と亀吉が云った、「女はだめだ、いくのはおいらとあんちゃんだ、男だからな」
「みんないくのよ」とおつぎが云った、「放ればなれになるくらいなら、みんなでのたれ死にするほうがましだわ」そしておつぎは泣きだした、「そうだわね、かあちゃん、そのほうがいいわね」
「よし、相談はきまった」と良吉がいさんで云った、「これで文句はねえだろう、ちゃん、よかったら、支度をしようぜ」
「良、――」とお直が感情のあふれるような声で呼びかけた。
重吉は低くうなだれ、片方の腕で顔をおおった。