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ひとでなし
ひとでなし
山本 周五郎
「講談倶楽部」1958(昭和33)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,484 字 · 38 页
やつだ」
「あの人、しんからの人でなしよ」おようは一と口飲んで云った、「それに比べれば、あなたは仏さまだわ、そうよ、まったく仏さまといってもいいくらいよ、病気のおかみさんを七年もみとってあげて、そのあいだいちどだって不実なことはなさらない、お店は立派にやってらっしゃるし、あたしのような者にもいろ恋ぬきで気をくばって下すった、――あの人でなしが、あの人でなしがあたしを枷に、お金をねだりにいったということは、あとで聞きました、あなたはいやな顔もなさらずに貸して下すったって、あの人は平気であたしにそう云いましたわ」
「金なんぞ」と彼は首を振った、「おまえの苦労に比べれば、少しばかりの金なんぞなんでもありゃあしないよ」
「あの人が石川島の寄場へ送られてから、この店を持たせて下さり、五年ものあいだ、面倒をみて頂き、そうしてこんどはこんなおばあさんになったあたしを、おかみさんにして下さる、――話に聞くだけならほんとにする者はないでしょ、現にこのあたしが、まだ半分は夢のようにしか思えないくらいですもの」
おようは手酌で飲んだ。その手つきを見て、康二郎はちょっと眉をしかめた。