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へちまのき

へちまの木

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1966(昭和41)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,120 字 · 58 页

青空文庫

おるいは掛け夜具を直して云った、「そうすればまた元気が出ますよ」

房二郎はすぐに眠った。ほんのちょっと眠ったような気持だったが、人の話し声を聞いて眼をさますと、行燈に火がはいってい、その脇の膳に向かって、木内桜谷が酒を飲んでいた。房二郎が声をかけると、木内はよく動く眼を細め、顔をくしゃくしゃにして笑った。

「朝このうちから使いが来たんでね、どんなようすか見に寄ったんだ」

「そんな心配はいらなかったのに」

「ゆうべがゆうべだからな」

「というと、――なにかあったのかい」

「忘れちまったのか」と木内はうまそうに酒を啜って云った、「今月から手当をきめてくれって、ちょび髭に談じ込んだんだよ」

ああと云って、房二郎は顔をしかめた。ちょび髭との問答を思いだしたのである。雇われてから約四十日、見習いということで、これまで一銭の手当もなかった。桜田小路の家から持って来た金も残り少なくなったので、思いきって文華に申込んだ。房二郎より三寸以上も背丈の低い文華は、ちょび髭を撫でながら、幾たびも咳をした。

――手当や手当やいうても、こっちゃもしょうばいやよってにな、と文華は例のきまり文句を云った、本当はな、記事屋というものは、店から手当を貰うより、記事のたねを金にするものときまったもんやがな。