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へちまのき

へちまの木

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1966(昭和41)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,120 字 · 58 页

青空文庫

八

「いきましょう木内さん」彼は木内を抱き起こしながら云った、「なにも持ってゆく物はないんでしょう」

「人殺しや、泥棒や」とおそでは足をばたばたさせながら喚き続けていた、「誰ぞ来て、誰か番所へ届けてえ」

房二郎は木内桜谷を抱えるようにして階段をおりた。女狐はまだ喚いていたが、下へおりると女中のおかつが、二人の草履を揃えて待ってい、なにか慰めを云いたそうであったが、吃りであるため、ただ顔を赤くし、意味不明な声を出すばかりであった。

「おまえも早くこんなうちは出ちまうがいいぜ」と房二郎はおかつに云った、「奉公する気なら、もう少しましなところがあるだろう、こんなうちにいると骨までしゃぶられるぜ」

店の外へ出たとき、うしろでおかつの、ありがとよ、と吃りながら云う声が聞えた。

「飲もうや木内さん」と彼は大きな声で云った、「こんな汚れた銭なんか持ってるのも恥ずかしい、みんな飲んじまおうぜ」

「そうだ、みんな飲んじまおう」あまり元気な調子ではなく、木内も云った、「今日は川向うへゆこうぜ」

八

「どういう気持だかわからねえ」

「わからねえことはねえさ」と木内が云った、「おめえに惚れてるからよ」