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へちまのき
へちまの木
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1966(昭和41)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,120 字 · 58 页
四
房二郎は文華堂へはいってからずっと、仮名書女庭訓という写し物をしていた。原本は高名な漢学者で、原題を「啓蒙婦女庭訓」といい、広く読まれている評判の本であった。その文章を少しずつ変え、仮名書にして売ろうというのである。つまり偽書を作るわけで、房二郎は一字書くごとに、恥ずかしさで汗をかく思いだった。
「しょうばいだよ、しょうばい」と木内桜谷は慰めてくれた、「にんげん生きてゆくためにゃあ、どんな恥ずかしいことも忍ばなくちゃあならねえときがある、気にしなさんな、そのうちに慣れるさ」
四
「そんなとこへ寝ちゃあだめよ、風邪をひくじゃないの、起きてよ池さん」
「おめえ誰だ」と房二郎が云った、「ここはいってえどこだ」
「あんたの部屋のあるうちじゃないの、小舟町よ」
房二郎は頭をもたげておるいを見、ああ、あんたかと云ってまた眼をつむり、畳の上で仰向けに寝返った。
「だめねえ、飲めもしないくせに」おるいは立ってゆき、坊主枕と掻巻を持って来て、房二郎に枕をさせ、掻巻を掛けてやった、「苦しいんじゃないの、水を持って来ましょうか」
房二郎には聞えなかったらしい、「――いっそ乞食にでもなればよかった」