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へちまのき

へちまの木

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1966(昭和41)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,120 字 · 58 页

青空文庫

「いつか話したと思う」と木内は続けて云った、「私は芝居の座付き作者になるつもりだった、代作ということでいたに乗った台本も幾つかある、だがそのうちに、或る芝居小屋の、頭取のかみさんとできてしまい、それがばれて、芝居の世界から追い出されちまった」

「もううちはそこですよ、うちへいってから聞きましょう、こんなところでぐずぐずしていると本当に風邪をひきますぜ」

「おれたちは苦労した、いや、苦労したのはおたねのほうだろう」木内は俯向いて両手で顔を押えながら云った、「芝居の世界から閉め出されたのは、おれにとって羽根をむしられた鳥のようなもんだ、出来ると思うことはなんでもやってみたが、結局はけちな筆で生きるよりしようがなかった、文華堂へ転げ込んだのは三年まえだが、ぼろ長屋の店賃を払って、一人がやっと食えるほどの手当にしかならず、おたねは自分からすすんで、箱根の湯治宿へ女中奉公にいってくれたんだ」

「それにしては」と房二郎が云った、「記事を書きながら、ずいぶんけいきよく飲んでいたな」

「かみさんから仕送りがきていたのさ」

「それで箱根か」

「湯治場は金になるからな」と云って木内はまた頭を垂れた、「――金になる、か、どんな気持で三年、箱根の山の中で苦労したことだろう」