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めおとちょう

めおと蝶

山本 周五郎

「講談倶楽部 春の臨時増刊号」大日本雄弁会講談社、1950(昭和25)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,977 字 · 47 页

青空文庫

良平が「むずかしい問題」と云っていた事であろう、同時にそれは知也にもつながっているのかもしれない。あの書類に列記されていた人たちの罪が決定したのだろうか、知也はやはり死罪なのだろうか。……給仕をしながら、眼で、耳で、あらゆる神経でそれを探り取ろうとした。だがかれらは用心ぶかく役所の話には触れず、なにごとも知ることができなかった。

良平の登城下城は平常にかえった。

気のせいか眉がひらいて、寝る前の酒――彼は独りでは食事のときは飲まなかった――には笑い顔さえみせるようなことがあった。こんなふうにして七日ばかり経った或る夜、昏れがたから雨になっていたが、いつもの時刻に茶を持ってゆくと、

「このごろ甲之助はどうだ」

良人が常になくこう話しかけた。そんなことは初めてである、信乃はそこへ坐った。

「やはり甲之助がそばにいてくれなくては寂しいか――」

「いいえ、もう慣れましたから」

「慣れたから、うむ……慣れた」

良平はふと雨の音を聞くように黙った。それから窓のほうを向いたまま、両手の指を組んで火桶の上へかざし、囁くような低い声で、独り言のように云った。

「子供は私とおまえの血を分けている、初めから私の子であり、おまえの子だ、……しかし私とおまえとは、もとは他人だ、……おまえがなにを望み、なにを考えているか、私には心底まではわから