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めおとちょう

めおと蝶

山本 周五郎

「講談倶楽部 春の臨時増刊号」大日本雄弁会講談社、1950(昭和25)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,977 字 · 47 页

青空文庫

しかし声は静かで、しめやかにおちついていた。

「でもわたくしやっぱり上村といっしょにゆくわ、あの離別状をどんな気持で書いたかわかるの、上村はわたくしを愛していて呉れた、今でも愛していて呉れるわ、……そうしてこの世の中で、上村の気持をわかってあげ、上村を愛することのできるのはわたくしひとりよ、……こんどこそ、わたくしたちはこんどこそ、本当の夫婦らしい夫婦になることができるのよ」

翌三月七日の午前十時。

囚獄方の役人に囲まれて、上村良平が関屋口の畷の松林までやって来た。追放者の多いばあいは、各人べつべつに放すのが通例である。編笠と銭三百文、両刀を渡すと、改めて追放の旨を云いわたし、領境を越すまで見送って慥かめるのである。……しかし役人たちは云いわたしが終ると、良平の歩きだすのを見て、すぐ城下のほうへひき返していった。

良平は茫然と、ひきずるような足どりで、松林の中を歩いていた。痩せて、眼がおち窪んで、唇の色も白く、尖った肩を前跼みにして、いかにもうち砕かれたような姿である。明るく晴れた空から、木洩れ日が彼の顔に斑らの光紋を投げ、また消えては投げする。……こうして松林を出ようとしたとき、右側の松の蔭から、旅支度の信乃が静かに出て来た。