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やぶからし
やぶからし
山本 周五郎
「週刊朝日増刊」朝日新聞社、1959(昭和34)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,476 字 · 44 页
二十両というお金は、むしろあの方をここへい据らせるだけだ。
――ではどうしたらいいか。
その夜は明けるまで、わたくしは殆んど眠れなかった。そうして明くる日もいちにち、考えられる限り考えたのち、これはやはり自分一人で始末をしよう、と思った。
――細貝家はこのままで幸福だ。
こずえには乳母を雇えばいい。自分がいなくなっても、さして不自由なことはないだろう。この十年、自分は仕合せにくらした。薙町で育った十六年に比べれば、細貝での十年は一生にも当るくらいだ。こんな仕合せを与えてくれた両親や、良人や、子供たちを護るためなら、自分を捨てても惜しくはない、とわたくしは思った。
それから約束の刻が来るまで、わたくしはある限りの自制力で心をしずめ、日常の事も、子供たちに対してさえも、ふだんと変ったようなそぶりは決してしなかった。そして刻限になって家を出るときは、小間使のいねにだけ「用達しに」と断わり、おかあさまにも会わなかった。
ふところには懐剣だけ入れていた。
――ふしぎなめぐりあわせだ。
あの方のことになるとこの懐剣が出る。十年もしまったままだったのを、こうしてまた手にしなければならない。