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やぶからし
やぶからし
山本 周五郎
「週刊朝日増刊」朝日新聞社、1959(昭和34)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,476 字 · 44 页
そのとき向うで叫び声が聞えた。
「すず――」とその声は叫んだ、「助けてくれ」
わたくしはよろめいた。男たちは勘ちがいをしたのだろう、両手をひろげて「だめだ」と云った。
「あんた方の見るものじゃあねえ、戻っておくんなさい」と男の一人が云った、「――わからねえんですか」
わたくしは向き直って、もと来たほうへふらふらと歩きだした。するとまた一と声、帛を裂くような声が聞えた。
「すず――」
わたくしはよろめき、道の脇へいって立ちすくんだ。そこは竹藪がかぶさっていて暗く、竹の枝に絡まった蔓草の先が、垂れかかってわたくしの顔に触った。
――野詰めにされる、命が危ない。
あれは本当だった、あの方の云ったことは事実だったのだ、そう思いながら、うるさく顔に触る蔓草を払いのけたが、ふとその蔓草を見て、突然なにかで突き刺されるような痛みを胸の奥に感じ、知らぬまにわたくしは泣きだしていた。禍いは去った、これですっかり終った、という安堵感と、あの方がいかにも哀れに思えたからである。
わたくしはそのやぶからしの蔓に、片手をそっと触れながら、涙が頬をながれるのも知らずにいた。