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おもいで
ロッパの悲食記
古川 緑波
古川緑波『ロッパの悲食記』。同一底本的分册已合并为一书。收入:想い出、ああ東京は食い倒れ、浅草を食べる、色町洋食、うどんのお化け、甘話休題、牛鍋からすき焼へ、下司味礼賛、神戸、氷屋ぞめき、このたび大阪、清涼飲料、食べたり君よ、駄パンその他、八の字づくし、富士屋ホテル。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,651 字 · 114 页
食べたり君よ
菊池先生の憶い出
菊池先生の憶い出
亡くなられた菊池寛先生に、初めてお目にかかったのは、僕が大学一年生の時だから、もう二十何年前のことである。
当時、文藝春秋社は、雑司ヶ谷金山にあり、僕はそこで、先生の下に働くことになった。
初対面後、間もなくの或る夕方、先生は僕を銀座へ誘って、夕食を御馳走して下さった。
今尚西銀座に、ダンスホールとなって残っているエーワン、それが未だカッテージ風の小さな店で、その頃一流のレストオランであった。
学生の身分などでは、そんな所で食事するなど及びもつかないことなので、エーワンへ入ったのは、これが初めてであった。
その上、まだ初対面から間もない菊池先生を前にしては、とても堅くなっちまって、どきまぎしていた。
「スープと、カツレツと、ライスカレー。僕は、それだけ。君は?」
「ハ、僕も、そうさして戴きます」
で、スープからカツレツ、ライスカレーと、順に運ばれるのを、夢心地で片っぱしから平げた。
先生のスピードには驚いた。スープなんぞは、匙を運ぶことの急しいこと、見る見るうちに空になる。ライスカレーも、ペロペロッと――
生まれて初めて食べたエーワンの、それらの料理。