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おもいで
ロッパの悲食記
古川 緑波
古川緑波『ロッパの悲食記』。同一底本的分册已合并为一书。收入:想い出、ああ東京は食い倒れ、浅草を食べる、色町洋食、うどんのお化け、甘話休題、牛鍋からすき焼へ、下司味礼賛、神戸、氷屋ぞめき、このたび大阪、清涼飲料、食べたり君よ、駄パンその他、八の字づくし、富士屋ホテル。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,651 字 · 114 页
富士屋ホテル
箱根宮の下の富士屋ホテルは、われら食子にとって、忘れられない美味の国だった。
戦前戦中、僕は、富士屋ホテルで、幾度か夏を過し、冬を送ったものだった。それが、終戦後、接収されて、日本人は入れなくなってしまった。そして又、それが一昨年の夏だったか、解除になって、再び日本人も歓迎ということになり、ホテルから通知が来た。
行きたいとは思いながら、暇もなかったし、又一つには(と言って、実は、これが重要な点であるが)高いだろうなあと思って、今まで行く機会が無かった。
戦前から戦後にかけての値段は、三食と、お八つ(コーヒー又は紅茶に、トースト)が附いて、バス附の部屋で、一泊二十円(サーヴィス料一割)位だった。さあそれが、今の世の中では、一体幾ら位になっていることだろう。
再開の通知を貰うと、折返し、値段を報せろと言ってやったので、それが届いた。三食附のアメリカンシステムではなくなって(戦後アメリカンシステムではなくなったのは面白い)(面白かあないか)食事は別になっている。そして、僕の計算によると、戦前の一泊二十円は、大体に於て、五千円位になるのではないか。但し、三食は食うが、酒を飲んだらそれでは済むまい。