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おもいで

ロッパの悲食記

古川 緑波

古川緑波『ロッパの悲食記』。同一底本的分册已合并为一书。收入:想い出、ああ東京は食い倒れ、浅草を食べる、色町洋食、うどんのお化け、甘話休題、牛鍋からすき焼へ、下司味礼賛、神戸、氷屋ぞめき、このたび大阪、清涼飲料、食べたり君よ、駄パンその他、八の字づくし、富士屋ホテル。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,651 字 · 114 页

青空文庫

谷崎先生と葡萄酒

「先生は、カツレツなんか召し上るんですか。僕は又、先生は日本料理ばっかりかと思っていました」

と言ったら、先生は仰有った。

「いやボクは、ナマの魚なんか食えません。専ら、カツレツだのオムレツがいい」

なアーンだ、それで安心した。

それから、先生も僕も、カツレツを何枚宛か食べてしまった。

谷崎先生と葡萄酒

これも日本ゴキゲンなりし昔のこと。

谷崎潤一郎先生が、兵庫県の岡本に住んで居られた頃である。

今や越境後、ソヴィエットの何処かに健在なりときく岡田嘉子――この頃日活の大スターたりし岡田嘉子である――と共に、雑誌の用で、僕は先生のお宅を訪れたことがある。

要件が済んで、先生が「これから大阪へ出て、何か食おうじゃないか」と、誘って下さって、岡本から大阪へ出た。

「何を食おう?」

「何が食いたい?」

結局、宗右衛門町の本みやけへ行って、牛肉のヘット焼を食おうということに話が定って、円タクを拾って乗る。

谷崎先生は、円タクを途中で止めて、「一寸待ってて呉れ」と、北浜の、サムボアという酒場へ寄り、「赤い葡萄酒一本」と命じて、やがて葡萄酒の壜を持って来られた。

そして、――思い出す、それは暑い日だった。