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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

隣家の前ではあるが手のついでに取りかたづけてやりなさい」

声もなく老婆が二つ折れに腰をかがめた時に、くだんの武士、ちらとうしろを見返って歩き出そうとした。お供であろう、すこし離れて同じつくりの血気の侍がひとりついているのだ。

こんなこととは知らないから、婆さんから婆あへおいおい格をおとして、家内では喜左衛門が胴間声をあげている。

呼んでいるから行け! というように、先なる侍の眼がほほえんで老婆を見た。

いくら呼んでも女房の返辞がないので、チェッ! と舌打ちをした喜左衛門は、自分で外出のしたくをして、すぐに本所の鈴川様のお屋敷へ行こうと、鍛冶屋富五郎をうながしてそとへ出た。

出てみると、

そこらにいないと思った女房が、いまにも泣き出しそうな顔をさげて、誰かにピョコピョコおじぎをしている。喜左衛門老人はカッカッとなった。

「なんでえ! べら棒めッ! 通る人を見て泣いてやがら。気でも狂れたんじゃねえか」

ポンポンどなりながらひょいと見ると、四、五間むこうを供をつれてゆくりっぱな侍。

はて! どこかで見たような! と小首をかしげた喜左衛門、こんどは蚊の鳴くような低声だ。