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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

離れれば夜泣きする二つの刀……それは取りもなおさず、別れていて夜泣きするお艶栄三郎の身の上であった。

定まれる奇縁。

栄三郎は、そういう気がする。

黙想のうちにわが家の門口まで来たかれ、そのままはいりかけた足をとめて、ふと露地のむこうの闇黒をすかし見た。

何やら黒い影がふたつ、逃げるように急ぎ去っていくのだ。

ひとつはどうやら若侍のうしろ姿。だが、つれとみえる他のかげは?

小児か?……それとも野猿のたぐい?

栄三郎、思わずギョッ! として眼をこすった。

大小二つの人影!

ひとつは煙のごとく、他は地を這うように、たちまち消え失せたと見るや、栄三郎は、追いかけようとした身の構えをくずして家内へはいった。

飯のふきこぼれるにおい。

泰軒の大声。

「うわアッ! いま沢庵を切っとって手が離されん。早く、その、釜のふたをとってくれ」

帰るやいなや、栄三郎も手伝って、ふたりの男がてんてこまいを演じたのち、ようように小豆も煮えて、どうやら赤の御飯らしいものができあがる。

台所道具から夜具蒲団まで勝手放題に取り散らかした真ん中で、両人さっそく夕餉の膳に向かう。

くらい行燈の灯かげ……。