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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

それへ、影が写っているのだ――かげ芝居。

左の部屋には……武士らしい大一座が群れさわいで、だいぶん酒がはずんでいるらしく、大きな影法師が入り乱れて杯の流れ飛ぶのが蝶の狂うがごとくに見える。

と!

そこの障子に、細長い影が一つうつり出した。ほかの者が手を叩くのが聞こえる。するとその立っている影が、朗々たる詩吟の声に合わせて、剣舞でも舞いはじめたものとみえて、たしかに抜き身の手ぶり畳を踏み鳴らすひびきが伝わってくるのだが! 下の道路から見あげる泰軒と栄三郎がわれにもなく足をとめたゆえんのものは!

その影が隻腕片剣……。

「栄三郎殿、あれはどうじゃ?」

「泰軒先生ッ」

すばやく私語しあいつつ、なおも障子に躍る片腕長身の士のつるぎの舞いを見つめている両人――諏訪栄三郎満腔の戦意をこめて思わず柄がしらを握りしめ、おのずからなる武者ぶるいを禁じ得なかった。

それが、分身坤竜丸の刀魂に伝わってか、カタカタカタとこまかく鍔の鳴る音! うしみつ。

刀が刀を慕い刃が刃を呼んで、いまし脇差坤竜が夜泣きをしているとも聞こえる。

が、まもなく。

こんどは右の小座敷に……。

男女のくろ影が鮮やかに映り出して、それは別の意味で、泰軒と栄三郎を、ひいてはすこし離れたところに隠れている弥生と豆太郎を、あっ! と言わせずにはおかなかった。