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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
01 乾雲坤竜の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页
見えた。
騒擾の夜の静寂は、ひとしお身にしみる。
ことに夜……その不気味な休戦には、いっそ血を浴びていたほうが、まだましだと思わせる緊張がはらまれていた。
早いあけぼの。
栄三郎と山東平七郎は。
泰軒と月輪軍之助は。
また、かの丹下左膳は。
かれらも、共同の敵なるこの玄妙飛来剣のまえには勝負を中止せざるを得なかったとみえて、どこにもそこらには立ち姿の見えないのは、いいあわしたように草に伏しているのであろう――。
じっさい、かの手裏剣は左膳をはじめ、月輪組を襲うのみならず栄三郎泰軒をも目標にしているものに相違なかった。
というのは、一度ならず二度、三度までも、例の小柄が泰軒栄三郎の身辺に近く飛んで来て、ひとつは、栄三郎の腰なる武蔵太郎の鞘を殺いで落ちたことさえあったことだ。
この得体の知れない飛び道具にはせっかく腕に油の乗りかけて来た栄三郎も、また天下に怖いもののないはずの泰軒先生も、ちょっと扱いようがなくて、とにかくとっさに相手の月輪とともに地に伏さっているのだった。
左膳もどこかに這っているのであろう……しいんとした夜気に明け近い色がただよって、低く傾いた月は漸次に光を失いつつある。