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かずえはいそがしい
主計は忙しい
山本 周五郎
「奇譚」1940(昭和15)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,315 字 · 37 页
と、馬を曳きながら狭い道へはいっていった。梅林のまわりは平坦なかなり広い草原になっている、主計は傍らの木に手綱をゆわえつけた。
「なぜ追って来たかわかるか、武田」
「云いたいことがあったら云うがいいだろう、なんの用だ」
「弥一郎がすっかり白状した」主計はじっと相手の眼を見た、
「――子供だましのつまらない手だった、よせばよかったのに、あの逆胴の手よりもっと下らない」
「云うことはそれだけか」
「もう一つある、先生のお考えは知らないが道場へは帰って貰いたくない、どう考えてもおまえは不似合だ、おまえにはおまえでほかに場所があるようだ」
「帰れと云っても帰りはせんさ」
平之助は冷笑した、
「――だが土産を進呈したいから持っていってくれ」
「結構だね、貰ってゆくよ」
「かさばらない物だ」
云うと同時に絶叫して、抜打ちを仕かけた。間合も呼吸も好い条件だったが、主計はその先をとって後ろへ跳び、二の太刀の来るまえに刀を抜いていた。
「例の手をやってみろ、真剣ならなんとか云ったな」主計は刀を直線にして中段に構え、にっと微笑をうかべながら云った、「――どうしてあの手が悪いかを教えてやる、来い」