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かずえはいそがしい

主計は忙しい

山本 周五郎

「奇譚」1940(昭和15)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,315 字 · 37 页

青空文庫

四

「武田さんが大先生に折檻されています、早くいって止めて下さい」

「どこだ」主計は走りだした。

「道場です、杉原さんにも誰にも手が出せないんです、とても大変なんです」

道場へいってみると、門人たちは居堪らなかったとみえて誰もいず、師の市郎左衛門が俯伏せにうずくまっている武田平之助の背へ、竹刀でぴしぴしと烈しい打擲をくれていた。

「お待ち下さい先生、お待ち下さい」

「いかん、止めるな」

「まず暫く」主計は師の躯を抱き止めた、「――おからだに障りますからお止め下さい。御不興がございましたら私から申し聞かせます。どうぞこのまま、武田、向うへゆけ」

押分けながら、市郎左衛門を抱くようにし居間へ伴れていった。市郎左衛門は肩で息をしていた。そして居間へはいるなりそこへ崩れるように坐ったが、同時に顔を脇へそむけて、怒りと悲しみの入混った声音でこう云った。

「――哀れなやつだ」

四

道場へ取って返すと平之助は部屋へいったという、主計は石井勇作に「したくをしておけ」と命じておいてそっちへいった。平之助は蒼白めた顔で着替えをしていた。主計は近寄っていって肩を押えた。

「あの手をみつかったんだね」