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かずえはいそがしい

主計は忙しい

山本 周五郎

「奇譚」1940(昭和15)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,315 字 · 37 页

青空文庫

五

「さっぱりいけません、これも相変らずです」

「身を固めなくちゃいかん」叔父はじろじろと甥を眺めまわした、「――もう妻帯してもいい頃だ、おれが養子の口を捜してやるからゆくがいい、そしてもう少しおちつくんだ、おまえにはいい素質があるんだから」

「妻帯ですか」主計はふと首を傾げる、「――そうですな、妻帯、……身を固める」

そこで彼はあっと声をあげた。

――そうだ、それだった。こう思って主計は膝を撫でた。折江から頼まれたのはそれだった、師の市郎左衛門に結婚の申込みをすることだ、留守のあいだに、よしきた、こんどこそ忘れないぞ。

五

明くる朝であった。道場へゆくとすぐ、主計は市郎左衛門をその居間に訪ね、いずれ正式に人は立てるがと云って、折江との結婚の内諾を乞うた。――相手にはとつぜんすぎるかもしれないが、なにしろ忙しいのでまた忘れたら困ると思ったのだ。市郎左衛門もほぼそれとは察していたらしい、

「そんなことを折江から聞いたようにも思うが」こう云ってふとするどくこちらを見た、「――しかし、わしは承知できない、はっきり断わる」

主計はあっと口をあいた。師の表情はこれまでになく冷やかで、どこかに嫌悪の色さえあるようだ、主計は寧ろどぎまぎした。