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こじきがくせい

乞食学生

太宰 治

「若草」1940(昭和15)年7~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,682 字 · 68 页

青空文庫

「概念的だっていい。そんな、平凡な苦しさを君は知らないんだ。」

「僕だって、それや知っているつもりだがね。わかり切った事だ。胸に畳んで、言わないだけだ。」

「それじゃ君は、映画の説明が出来るかね?」少年と私とは、先刻から、視線を平行に池の面に放って、並んで坐ったままなのである。

「映画の説明?」

「そうさ。娘が、この春休みに北海道へ旅行に行って、そうして、十六ミリというのかね、北海道の風景を、どっさり撮影して来たというわけさ。おそろしく長いフィルムだ。僕も、ちょっと見せてもらったがね。しどろもどろの実写だよ。こんどそれを葉山さんのサロンで公開するんだそうだ。所謂、お友達、を集めてね。ところが、その愚劣な映画の弁士を勤めて、お客の御機嫌を取り結ぶのが、僕の役目なんだそうだ。」

「それあいい。」私は、大声で笑ってしまった。「いいじゃないか。北海道の春は、いまだ浅くして、――」

「本気で言ってるのかね?」少年の声は、怒りに震えているようであった。

私は、あわてて頬を固くし、真面目な口調に返り、

「僕なら、平気でやってのけるね。自己優越を感じている者だけが、真の道化をやれるんだ。