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こじきがくせい
乞食学生
「若草」1940(昭和15)年7~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,682 字 · 68 页
第五回
僕たちは、里見八犬伝に於て共鳴し合ったのです。」
往来で喧嘩が、はじまりそうなので、私は閉口した。
「止し給え。止し給え。どうして君たちは、そんなに仲が悪いんだ。佐伯の態度も、よくないぞ。熊本君は、紳士なんだ。懸命なんだよ。人の懸命な生きかたを、嘲笑するのは、間違いだ。」
「君こそ嘲笑している癖に。」佐伯は、私にかかって来た。「君は、老獪なだけなんだ。」
言い合っていると際限が無かった。私は、小さい食堂を前方に見つけて、
「はいろう。あそこで、ゆっくり話そう。」興奮して蒼ざめ、ぶるぶる震えている熊本君の片腕をつかんで、とっとと歩き出した。佐伯も私たちの後から、のろのろ、ついて来た。
「佐伯君は、いけません。悪魔です。」熊本君は、泣くような声で訴えた。「ご存じですか? きのう留置場から出たばかりなんですよ。」
私は仰天した。
「知りません。全然、知りません。」
私たちは、もう、その薄暗い食堂にはいっていた。
第五回
私は暫く何も、ものが言えなかった。裏切られ、ばかにされている事を知った刹那の、あの、つんのめされるような苦い墜落の味を御馳走された気持で、食堂の隅の椅子に、どかりと坐った。