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こじきがくせい

乞食学生

太宰 治

「若草」1940(昭和15)年7~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,682 字 · 68 页

青空文庫

塵をかぶりて   若人の

帽子は古び    粗衣は裂け

長剣は錆を    こうむりて

したたる光    今いずこ

宴の歌も     消えうせつ

刃音拍車の    音もなし

ああ移り行く世の姿

ああ移り行く世の姿

されど正しき   若人の

心は永久に    冷むるなし

勉めの日にも   嬉戯の

つどいの日にも  輝きつ

古りたる殻は   消ゆるとも

実こそは残れ   我が胸に

その実を犇と護らなん

その実を犇と護らなん」(アルト・ハイデルベルヒ)

歌っているのは、私だけであった。調子はずれの胴間声で、臆することなく呶鳴り散らしていたのだが、歌い終って、「なんだ、誰も歌ってやしないじゃないか。もう一ぺん。アイン、ツワイ、ドライ!」と叫んだ時に、

「おい、おい。」と背後から肩を叩かれた。振り向いて見ると、警官である。「宵の口から、そんなに騒いで歩いては、悪いじゃないか。君は、どこの学生だ。隠さずに言ってみ給え。」

私は自分の運命を直覚した。これは、しまった。私は学生の姿である。三十二歳の酔詩人ではなかった。ちょっとのお詫びでは、ゆるされそうもない。絶体絶命。逃げようか。