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ふたつのみち
二つの途
豊島 与志雄
「新小説」1920(大正9)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 51,102 字 · 104 页
腹を立ててるのか悲しんでるのか、自分でも分らない。多分その両方だろう。お前が一人でじっと坐っているのを見ると、お前を泣かしてみたいような……そら、僕達はよく二人で、夕方なんか黙って庭に眼を落しながら、心では暮れてゆく淋しい空を眺めて、いつまでもじっとしていたことがあったろう。しまいにお前は、いつのまにか涙を流していたね。……ああいうお前の姿を見たいような気になってくる。そしてまた一方ではそういう自分の心に一種の残忍な苛ら立ちを感じてくる。一体僕は何を求めているんだろう? 自分でも分らないんだ。そしてよくお前の心を痛めるようなことを云ったりしたりする。許してくれ。実際長い間こうして病気で寝ていると、何処か心の中に平衡が失われてくるものだ。お前を苦しめてるのなら許してくれ。僕はお前の幸福を願っている。此度はもう僕も助からないかも知れないと……。」
「いえ、いえ、そんなことを仰言っちゃいや。」
信子は彼の蒲団の襟を両手に握りしめて、耳を塞ごうとでもするように強く頭を打ち振った。こみ上げてくる咳を押し止めて彼が顔を渋めると、彼女は急いで痰吐を取り上げた。それから枕頭のハンケチで彼の顔を拭いてやった。