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ふたつのみち

二つの途

豊島 与志雄

「新小説」1920(大正9)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 51,102 字 · 104 页

青空文庫

押えとめられて却って喘ぎの音を立ててる、温い息が感ぜられた。それが数瞬の間続いた。啓介は俄に直覚した。疑う余地はなかった。彼は暫く躊躇した。それから眼をふさいで心を落ち付けた。そして云った。

「木下君、はいり給え。丁度眼がさめてるから。」

三四秒の間、静まり返った。それからすーっと襖が開いて、木下がはいって来た。

彼の顔は総毛立っていた。眼の光りが黒く冴え返って、荒々しいほど露わに覗き出していた。彼は室内をくるりと見廻した。それから、其処に置かれてる炬燵によりかかるようにして坐った。

「まだ起きてたのか。」と啓介は云った。声が自然に震えた。

「用があるんだ。」と木下は答えた。

啓介は黙っていた。

「君は、」と木下は云った、「僕のやったことを卑劣だと思ってるね。」

啓介は静に首を振った。

「つまらないお世辞は止し給え。僕自身も卑劣だと知ってる。然し……僕は君達の心が知りたいんだ。」

「おい、低い声で云ってくれ給え。」と啓介は注意した。調子はもう落付いていた。「二人共眠ってるから。」

暫く沈黙が続いた。

「僕は今のうちに、解決しておきたいんだ。」と木下は云った。「中途半端な状態は堪えられない、然し病気の君と争うつもりではない。