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ふたつのみち
二つの途
豊島 与志雄
「新小説」1920(大正9)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 51,102 字 · 104 页
皆眠ってるんだ。」
「二人に聞かれるのが恐ろしいのか。」
「木下、君はどうしてそう悪魔のような物の云い方をするのか?」
「そして君は、神のような物の云い方をしてるというんだろう!」
二人は黙り込んだ。互の間に越え難い溝渠があるのを、二人共感じた。……啓介の性格は、より強くてまたより退守的であった。木下の性格は、より弱くてまたより突進的であった。而も、強くて退守的な啓介の心は、深い宗教的な雰囲気に包まれていた。弱くて突進的な木下の心は、苛ら立った現実的な雰囲気に包まれていた。二人はいつのまにか、遠い距離を距てて立っていた。
「木下、」と啓介は云った、「僕はもう何にも云うまい。ただ自分を恥しいと思う。……信子の心に自由な途を歩かしてやろうじゃないか。」
「そして君は、ただ待ってるというのか。」
「それより外に仕方がない。」
「それが最も安全な勝利の方法だろうさ。」
「何が?」
「そうさ、僕と信子さんとの間は唇と唇との交渉にすぎない。然し君と信子さんとの間はもっと深い交渉だからね。」
「何だと!」啓介は思わず叫んだ。
「君は夢想家さ。そして最も実際家だ。」
「木下、君の心は何処まで汚れてゆくんだ! 何処まで僕をふみ蹂ろうとするんだ!」