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にかいから
二階から
岡本 綺堂
「木太刀」1915(大正4)年3、7、8、9月、1916(大正5)年1、4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,761 字 · 30 页
再び声をかけたが、大尉はやはり答えなかった。その中に衛兵は不思議なことを発見した。大尉の持っている提灯は紙ばかりで骨がなかった。大尉は剣も着けていなかった。衛兵は三たび呼んだが、それでも返事のないのを見て、彼はやにわに銃剣を揮って大尉の胸を突き刺した。大尉は悲鳴をあげて倒れた。
衛兵はその旨を届け出たので、隊でも驚いた。司令部でも驚いた。当番のS君は真先に現場へ出張した。聯隊長その他も駈付けて見ると、M大尉は軍服を着たままで倒れていた。衛兵の申立とは違って、その持っている提灯には骨があった。しかし剣は着けていなかった、靴も穿いていなかった。殊に当番でもない彼が何故こんな姿でここへ巡回して来たのか、それが第一の疑問であった。取あえずM大尉の自宅へ使を走らせると、大尉は無事に蚊帳の中に眠っていた。呼び起してこの出来事を報告すると、大尉自身も面食って早々にここへ駈付けて来た。
大尉は小作りの人であった。倒れている死体も小作りの男であった。何人も初めは一見して彼を大尉と認めていたが、ほんとうの大尉その人に比較して能く視ると、まるで似付かないほどに顔が違っていた。