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ひとでなしのこい

人でなしの恋

江戸川 乱歩

「サンデー毎日」大阪毎日新聞社、1926(大正15)年10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,245 字 · 33 页

青空文庫

、それが昔は、火の様に燃えて、さぞかし立派なものだったのでございましょう。兜もちゃんと頂いて、それに鼻から下を覆う、あの恐ろしい鉄の面までも揃っているのでございます。昼でも薄暗い蔵の中で、それをじっと見ていますと、今にも籠手、脛当が動き出して、丁度頭の上に懸けてある、大身の槍を取るかとも思われ、いきなりキャッと叫んで、逃げ出したい気持さえいたすのでございます。

小さな窓から、金網を越して、淡い秋の光がさしてはいますけれど、その窓があまりに小さいため、蔵の中は、隅の方になると、夜の様に暗く、そこに蒔絵だとか、金具だとかいうものだけが、魑魅魍魎の目の様に、怪しく、鈍く、光っているのでございます。その中で、あの生霊の妄想を思い出しでもしようものなら、女の身で、どうまあ辛抱が出来ましょう。その怖わさ恐ろしさを、やっと堪えて、兎も角も、長持を開くことが出来ましたのは、やっぱり、恋という曲者の強い力でございましょうね。

まさかそんなことがと思いながら、でも何となく薄気味悪くて、一つ一つ長持の蓋を開く時には、からだ中から冷いものがにじみ出し、ハッと息も止まる思いでございました。