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びぜんめいきゅうでん
備前名弓伝
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,649 字 · 50 页
結び矢来の内と外、向うの端を風のように走っている狼、三之丞は馬上にはじめて弓を取り直し、矢をつがえた。
狼は走る、馬も走る、そのまま馬場を一周すると、馬と狼の速度がぴたりと合った、両方とも疾駆だ、三之丞の待っていたのはその刹那である。狼が如何に身軽であっても、疾駆している体勢では神速に体を躱すことはできない。ここだと思って馬上に伸びあがる、きりきりと弓をひき絞って、一つ、二つ、三つ、呼吸三つほど気合をはかったとみると、ひょうふっつと切って放った。
「それやった――!」
と乗り出す目前。空を截って飛んだ矢はあやまたず、疾走している狼の喉元をぷつりと射抜いた。
――ぎゃぎゃぎゃん!
すさまじい悲鳴と共に、さすがの兇獣も横ざまに顛倒する、すぐ跳び起きて、首を振りながら二度三度、土埃をあげて転げ廻ったが、やがてぐたりと地面へ倒れ伏した。
「やった、やった、やった」「わあーっ」見物の人々は思わず総立ち、手を拍ち膝を叩いてしばらくは鳴りもやまない。三之丞は別にさしたることもないという顔付きで、静かに肩衣をかけ、桟敷正面へ馬をすすめて拝礼をすると、馬場を周って退いた。