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びぜんめいきゅうでん
備前名弓伝
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,649 字 · 50 页
「なんだ」光政が受取って読むと、
申し遺す事
書を以て馬を御すの法無し。当藩主池田侯は隠れなき名君と聞き及べども、まことの武士を鑑みるの明なく、我れ之に仕うるを廉しとせず。即ちかえって侯に捧ぐるに暇を以てす。世人批判を誤ることなかれ。
滝川幸之進平友正
こちらから主君に暇をやるという意味、またあと書として、山陽道を上って立退くから追手を向けるなら相手をする、決して逃げも隠れもしないと書いてあった。
「恐れながら」光政が読み終るのを待兼ねて、「幸之進追手の役目、三之丞にお申付けくだされたく、枉げておねがい申上げまする」「よし行け」「もう一つおねがいがございます」「なんだ」「粕谷、富永、宮田、桜井、以上四名を検分役としてお差添えくださいまするよう」「許す、伴れてまいれ」「かたじけのう」三之丞は口許に微笑をうかべながら主君の顔を見上げたが、「御免」と云って滑るように出ていった。
光政は本心から怒っていた。昨日叱りつけたあとでも、いつかは自分の悪いことに気付いてあやまってくるものと信じていた。ところがあやまるどころか、暴慢無礼な文字を書き遺し、家に火を放って立退いたのである。