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びぜんめいきゅうでん
備前名弓伝
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,649 字 · 50 页
「はっ、わたくし娘にござります」頷いた光政。「許す、なにごとだ申せ」「恐れながらお直の言上、お赦しをねがいます、ただ今お上の仰せに、矢一筋では三之丞危なしとございましたけれど、矢一筋にて立派にお役を果しましょうかと存じます」
「ほう、なぜだ。矢一筋で幸之進を仕止めるとどうして分る」「はい、過日、鉄砲的場に於きまして勝負の折にも、三之丞が勝つべきところでござりました。あの負は負でございませぬ」「しかし七人の者が立会っておるぞ、七人の見る眼に誤りがあったと申すか」「御検分の方々は勝負を御覧になりました。勝負を見るお眼に誤りはございませんでしたなれど、そのとき三之丞の用いました弓にはお眼が止りませんでした」「三之丞の用いた弓がどうした」「あのとき用いました弓は、稽古に使うごく弱いものでござりました」光政も三左衛門もあっと眼を見はった。なつはしずかに続けて、
「当日わたくしは帰宅しました三之丞から弓を受取りまして、はじめてそれと気付いたのでございますが、もとより三之丞が誰にも知れぬようにいたしましたことゆえ、今日まで黙っていたのでございます。……このたびこそは一矢で射止めるに相違ございません、御心易く思召されてしかるべく存じまする」