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ふゆがれ

冬枯れ

徳永 直

「中央公論」1934(昭和9)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,850 字 · 48 页

青空文庫

「蜜柑でも喰べたらどうだ、次の駅で買ってみるか!」

要らない、という風に相手は首をうごかした。鷲尾は赤ン坊を自分の背に括りつけ、腕木に腰かけながら、フッと窓外を見ようとした。すると意外なことに、そこにはスチームに汗ばんた窓硝子に、怖ろしく爺くさい、こけた頬の、凹んだ眼がキラついている顔が映った。それはまるで他人のように見えた。――

窓外は勿論何にも見えなかった。鷲尾はやがて手帳を出して、二三枚ちぎりながら別れてきた末弟へ宛てて、手紙を書き始めた――。

……虎吉君、俺は君に逢った事が今度の帰郷での第一の収穫だった。俺はツイそっぽむいていた。足が地べたを離れていたのだ――。君達は近代プロレタリアートだ。君達は働く、君達は偉大な忍耐力をもっている、君達は……。

背中で赤ン坊が泣き出すと、鷲尾は「ヨイ、ヨイ」と揺すぶらねばならなかった――。

……君達は焦らない、そして常に準備している。成程、いまは冬だ、怖ろしい冬だ。しかし君達は世界のだれよりも必らず「春」が来るだろうことは疑わないのだ……。

書きかけては鉛筆を甜めながら眼をあげた。どのへんだか、何時頃だか判らなかった。