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ふゆがれ
冬枯れ
徳永 直
「中央公論」1934(昭和9)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,850 字 · 48 页
四
――
「じゃ、また会いにゆきます」
「ん、そうしよう」
急に早足になって、二人は麓ちかくの小径でわかれた。鷲尾は途中で一度も振返らなかったが、家まできてからまさかと思いながらうしろを見るとハッとした。製材木置場に半身かくした黒いオーバーは何気ない風でこっちを注視しているのだった。まだ若い丸顔の下品な鰐口が、こんどはこっちからもよくみえた。
四
鷲尾は帰郷してこのかた、二タ月も以前からプランをたてていた小説に何度もとりかかった。子供達を寝かしてから室の隅に電灯をおろして、指先まで凍えながら幾晩も座ったが、どうしても駄目だった。油気のない文章の中に泛びあがる人間は生気も熱情もなかった。そしてどどのつまりはそれが作者である自分の態度にあるんだ、このフラついている気持にあるんだと気がつくと、もう壁にぶっつかったようにペンを鷲づかみにして、原稿紙をピリピリさせながら――この臆病者、卑怯者、子供にも親にもひかれるこの偽者め――などと殴り書きした。
その癖もうすぐ気が滅入り、M君がきた翌日などは、終日戸外へも出なかった。いつもの伝で、…………………書物や原稿紙まで始末してから、軒先の陽だまりにボンヤリ腰かけていた。