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ふゆがれ

冬枯れ

徳永 直

「中央公論」1934(昭和9)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,850 字 · 48 页

青空文庫

三

「N君……」

こんどは少し大声で呼ぶと、何と感づいたかN君は、何か落し物でもしたように、足許へ顔を俯むけてグルグル舞いをするのである。こけた頬、涎を流しているしまりのない顎のあたり、三年まえきたとき見掛けたよりは、グッと衰弱しているのがわかった。

「コラ、コラ……」

家の中から、大きな下駄を突ッかけた六歳ばかりの女の児が、鼻汁を啜りあげながら出てきた。そしていきなり品物でも搬ぶように、狂人の脊へ両手をあてがうと、グングン家の方へ押しやった。――

「きみ、きみ……」

たぶん妹か、姪らしい女の児に声をかけると、曼珠沙華のように赫ちゃけた頭髪はくるッと振りむいて、ひどく憤った顔色で「赤ンベイ」をしてみせた。

きっと鷲尾をだれかと勘違いしたのだろう。狂人はおされてヒョロつきながら、それでもおとなしく家の中へはいってゆくのだった。

鷲尾はまたセカセカと歩き出した。――

三

鷲尾はどうかすると朝早くから、裏の田圃に面した風の吹っこむ室で本を読んだ。堅い社会科学に類する書物で、衰え上ずった頭脳では却々入りにくかった。それでメチャメチャにアンダーラインを引張ってみたり、それでも駄目だと一つところを何回も何回も大きな声を出して繰り返した。