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はつつぼみ

初蕾

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1947(昭和22)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,525 字 · 35 页

青空文庫

「どうせ泣くように生れついたんだ」

と、お民はなんども呟いた。

「物置みたいな小屋で死んでいったおっ母さんのことを思えば、不仕合せになったところでたかが知れている、いっそゆくところまでいってみるがいいのさ」

そういうつきつめた気持のあとから、しかし身内にある小さないのちのことが棘の刺さるように心を咎め、喜右衛門の世話になろうかと迷いを誘われるのだった。

午後になってから思いがけなく、半之助は四五人づれで来た、人を伴れて来たのは初めてで、もうかなり酔っていた。お民は親しい口もきけず、そっと眼で心をかよわせるばかりだったが、やがて彼が手洗いに立つと、廊下まで追っていって縋り付いた、彼の息には悪酔をしたときのいやな匂いがあった。

「きょうで七日ですよ、どうなすったの」

「こんど納戸役というのに成ったんだ、そのことでずっと暇がなかったものだから」

彼は蒼い顔つきで、それでも笑いながらそう云った。

「あのれんちゅうは役所の新しい同僚だ、恐ろしく酒の強いやつがいるから加減をして呉れ」

「ゆっくりしていらっしゃるのでしょう」

「みんなを帰してからだ」

少し話があるんですからと云って、お民は半之助の手を自分の胸へ抱緊め、溢れるようなまなざしで男の眼を見た。