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ばけいちょう

化銀杏

泉 鏡花

「文芸倶楽部」1896(明治29)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,197 字 · 54 页

青空文庫

七

何しろ、教場へ出て来ると、礼式もないで、突然、ボウルドに問題を書出して、

(何番、これを。)

といったきり椅子にかかッて、こう、少しうつむいて、肱をついて、黙っているッて。呼ばれた番号の奴は災難だ。大きに下稽古なんかして行かなかろうものなら、面くらって、(先生私には出来ません。)といってみても返事をしない。そのままうっちゃっておくもんだから、しまいにゃあ泣声で、(私には出来ません、先生々々。)と呼ぶと、顔も動さなけりゃ、見向きもしないで、(遣ってみるです。)というッきりで、取附島も何にもないと。それでも遣ってみても出来そうもない奴は、立ったり、居たり、ボウルドの前へ出ようとして中戻をしたり、愚図々々迷ついてる間に、柝が鳴って、時間が済むと、先生はそのまんまでフイと行ってしまうんだッて。そんな時あ問題を一つ見たばかりで、一時間まる遊び。」

七

「だから、西岡は何でも一方に超然として、考えていることがあるんだろう。えらい! という者もあるよ。」

お貞は「何の。」という顔色。

「考えてるッて、大方内のことばかり考えてて、何をしても手が附かないでいるんだろう。聞いて御覧、芳さんが来てからは、また考えようがいっそきびしいに相違ないから。