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ばけいちょう

化銀杏

泉 鏡花

「文芸倶楽部」1896(明治29)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,197 字 · 54 页

青空文庫

二

「余ってるよ、奥様はけちだねえ。」

と湯呑を返せり。お貞は手に取りて中を覗き、

「何だ、けも残しゃアしない。」

と底の方に残りたるを、薬のように仰ぎ飲みつ。

「まあ、芳さんお坐ンな、そうしてなぜ人を、奥様々々ッて呼ぶの、嫌なこッた。」

「だって、円髷に結ってるもの、銀杏返の時は姉様だけれど、円髷の時ゃ奥様だ。」

二

お貞はハッとせし風情にて、少年の顔を瞻りしが、腫ぼったき眼に思いを籠め、

「堪忍おしよ、それはもう芳さんが言わないでも、私はこの通り髪も濃くないもんだから、自分でも束ねていたいと思うがね、旦那が不可ッて言うから仕様がないのよ。」

「だからやっぱり奥様じゃあないか。」

と少年は平気なり。お貞はしおれて怨めしげに、

「だって、他の者なら可いけれど、芳さんにばかりは奥様ッて謂われると、何だか他人がましいので、頼母しくなくなるわ。せめて「お貞さん」とでも謂っておくれだと嬉しいけれど。」

とためいきして、力なげなるものいいなり。少年は無雑作に、

「じゃあ、お貞さんか。」

と言懸けて、

「何だか友達のように聞えるねえ。」

「だからやっぱり、姉さんが可いじゃあないかえ。