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じゅうはちじょうおつ

十八条乙

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1962(昭和37)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,127 字 · 26 页

青空文庫

母のたえがあやまって手にけがをし、出血がひどいからという理由で。玄智老が来るまで、庄兵衛は庭へおりて血痕の始末をした。

母には告げたが、家士や召使たちには、できる限り知れないようにした。伊原は「追手が出ている」と云ったので、街には騒ぎが弘まっているものと思ったが、玄智老はなにも知らないようすで、――友人と口論のうえ誤ってけがをした、ということを疑うようすもなかった。

「刀傷は吟味され、場合によっては私闘のお咎めを受けます」と庄兵衛が云った、「それで母がけがをしたと申したのですが、どうかこのことは内聞に願います」

「御家法二十六条によると、侍の刀傷は大目付へ届け出なければならない」と笈川医師は云った、「それがこの領内の医師の義務になっているが、私はもはや余命いくばくもない老骨だ、どんなことがあっても口外しないから安心するがよい」

そして明日また来るが、縫合した傷口を動かさないよう、特に注意しろと云って帰った。

庄兵衛は定刻に登城し、役所で事務をとりながら、なにか噂が聞けるかと期待していたが、平生どおり変ったこともなく、下城するまでそれらしい話さえ出なかった。